前回取り上げた残余利益モデルの具体的な計算式と使い方を紹介していきます。まず残余利益モデルは前提として※クリーンサープラス会計が成立している必要があります。
※クリーンサープラス会計…損益計算書で計算された期間損益と、貸借対照表における純資産の増減額(資本取引による増減額は除く)が等しくなる関係のこと。日本の会計では平成24年以降この関係が成立しています。
まず「要求利益」と「残余利益」を求めます。「要求利益」とは株主が求める期待収益利益のことで、計算式は下のようになります。
要求利益:株主資本×株主資本コスト
そして、残余利益は前回も述べましたがこうなります。
残余利益=当期純利益ー要求利益
そして、残余利益モデルの考え方は下のようになっています。
残余利益モデルによる企業価値 =期首自己資本 + [(1年後の純利益-株主要求利益)÷(1+株主資本コスト)] + [2年後の純利益-株主要求利益)÷(1+株主資本コスト)²] + ・・・ (以降、将来にわたる無期限に同様の繰り返し)
これは企業価値= 期首資本+将来残余利益の割引現在価値の合計ということを示しており、株価に置き換えるとこう表すことができます。
残余利益モデルによる理論株価=BPS + [(1年後のROE-株主資本コスト)×BPS÷(1+株主資本コスト)] + [(2年後のROE-株主資本コスト)×1年後のBPS÷(1+株主資本コスト)²] + ・・・
この式の注目すべきところは、(ROE-株主資本コスト)の部分で、ROEと株主資本コストの大小の差を示しています。
他の数値はプラスなので、ここの差がマイナスでも、理論株価は1項目の現在のBPS(一株純資産)を減らして算出することになり、もし利益がマイナスであっても、PERモデルなどと違って、理論上数値を出すことが可能です。
このように将来のROEが、株主資本コストを下回る予想になると、理論株価はBPS未満となりPBRの1倍割れが続くことを意味しています。
ですが、逆に言えば残余利益モデルの理論株価が上昇するためには、将来のROEが株主資本コストを上回ることが、絶対条件ということでもあります。
この残余利益モデルの最大の問題点は「株主資本コストの数値の決定」にあります。個々の企業の資本コストの水準は異なりますが、
グローバルな機関投資家が日本企業に期待する資本コストは、平均で7%超との調査結果がでているので、伊藤レポートでは8%を上回るROEを目指すべきとしています。
この株主資本コストの数値化にあたっては、現代ポートフォリオ理論の基盤を成すCAPM理論の手法を活用することが一般的です。(他にもサスティナブル成長率を使う方法もあります。)
(CAPMの公式)
株主資本コスト = 株価期待リターン = β × (株式市場全体の期待リターン-無リスク金利) + 無リスク金利
この公式を用いることで、株価と株式市場との連動性を示す※β(ベータ)および、「株式市場全体の期待リターン-無リスク金利」が分かれば、株主資本コストが数値化できることになります。
※β値: TOPIXが1%が変動した時に何%変動するかを示した数値、例えばある銘柄がTOPIXが1%上昇したときに5%上昇するならβ値は5、逆に5%下落するならー5と表される。
まずβ値を求めるには、公式中の期待リターンに代えて、過去一定期間の株価と株式市場平均(通常はTOPIX:東証株価指数)について、両者の月次リターンや週次リターンとの相関関係を統計的に分析することで算出されます。
この時無リスク金利としては、日本国債の長期金利(10年物国債利回り)を採用するのが一般的です。
⇨【株価分析】残余利益モデルとは? その3 (理論株価 その7)
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